nykergoto’s blog

機械学習とpythonをメインに

コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった・を読む。

西梅田にあるジュンク堂でこの本を買った。珍しく友達との飲み会の約束よりも早めについてしまったので本でも仕入れていこうかとより、適当にさまよっていると「コンテナ」という単語が目に入った。ソフトウェアエンジニアにとってコンテナは大変身近な概念だ。といってもこの本で言うところの運送のコンテナではなく、コードの実行環境を仮想化して管理する技術のことであるが、目に入ったのはなにかの縁だろうと思いカゴへ入れた。実店舗ではこのような不思議なマッチングがあるので楽しい。

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%8A%E7%89%A9%E8%AA%9E-%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%80%8C%E7%AE%B1%E3%80%8D%E3%81%AE%E7%99%BA%E6%98%8E%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F-%E5%A2%97%E8%A3%9C%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88-%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3/dp/4822289931

この本は運送業で使われるコンテナの歴史を記述したものだ。

ただの箱・コンテナ

巨大な港の写真などで無数のコンテナを積んだ船にクレーンが近づいていって、載せたりおろしたりしている映像は見たことがあるし、JR 四国でも貨物列車でコンテナが運ばれているのを見たことがある。僕たちがいつも買っている商品がコンテナを使って海外から送られていることも事実として知っている。ただその歴史や意味合いについて考えたことは一切なかった。なんなら一番はじめにコンテナという概念を聞いたときには、特にそれはすごいとかは思わなくて、そりゃ運ぶんだから箱ぐらいいるだろうという程度だったように思う。だって固定の箱に詰めるだけなのだから。

しかしこの本を読むとそのようなイメージは一新され、これがとてもインパクトのある概念であることが理解できるだろう。そして、面白いのは、コンテナという概念自体がとんでもない発明かというとそうではないところにある。

もちろん一番はじめにコンテナを使い始めた人は、既存の運送方法とは違う方法を取り入れるわけなので、先見性だったり実行力はあるだろう (マルコフマクリーンというおじさんがそれに該当する)。

ただマクリーンさんがすべてを生み出したわけではなく、コンテナが生まれるにはある種の必然性があり、それに彼は乗ったというかタイミングが良く出会ったようなところがあって、とうのマクリーン氏も「これやれば効率が上がるんじゃないか」程度の意識だったようだ。要するに既存の運送方法の延長線としてコンテナはあり、ちょっと効率よくなって嬉しいね程度のものということだ。

実際に当時の資料等が紹介されているが、一時しのぎのコスト削減方法としてしか見られていなかったし、専門家はコンテナ船は長距離航路では役に立たないと考えていた。専門家や経営者だけではなくて働いている労働者もそれは同じで、当時の海運業は荷物は港で働く労働者が載せたりおろしたりするのが基本だったので、労働者側からみたコンテナは荷物の一つであり、なにか交渉するにしても「そのコンテナの荷降ろしをやらせてくれ」という対象であった。みんなあまり大事だと思っていなかったのだ。

しかし、みなが侮ったコンテナは、界の物流の状況をまるっきり変えた。

世界の運送コストはそれ以前より劇的に減少して届くまでの日数・安全性も格段に向上した。その波及効果も大きくて、工場は最終消費地につくる必要はなくなったて産業構造や雇用は激変したし、東アジアが貿易拠点になったりでそれがない世界と比べて全く違うものになってしまった。読むとほんとにすげーなと思うのでぜひ読んでほしい。

なんでわからなかったのだろう

やはり気になるのは、これをなんでみんなわからなかったのだろうか? というところだ。

一つには今ある制約条件に縛られすぎたことがあると思う。

ちゃんとコンテナに対応した港は必要だし出荷する人がコンテナを意識した荷詰めをする必要もあるし、各国の規制当局との交渉もあるしで、当時はハードルはたくさんあったことが原因だけれど、結局このコンテナをフル活用したときの世界をみなが想像できなかったことがその過小評価につながったのだろうと思う。

もう一つ、こちらはコンテナゆえかもしれない原因なのだが、単なる箱なので侮ってたのでは? というところ。これは反対にすごそうに見える最先端技術が別に対して生活を変えないし利益を生まないパターンと対照的かもしれないのだけれど、やっぱり箱は箱なので今度からコンテナになるよと言われても直感的にすごいと思えないというのがあるようにも思う。

合理的予測の限界

もう一つ印象的なのは、予測が尽く外れていく様である。

p.6: 「コンテナ物語」が教えてくれるいちばん重要なものは「よきせぬ結果」が果たす役割だと思えてならない。

と著者はまえがきに書いている。全部終わった今から見るとなんでわからなかったのかとなるけれどもちろん当時の人達も皆なりに合理的に考えた結果見誤ったわけで、それは未来から見た今と重なるようにも思う。

何らかプロジェクトをしようと思うと、過去のデータをもとに定量的な予測をして計画を建てる。これは大変合理的できれいなんだけれど、その限界がわかりやすく提示されているように思える。計画から降りて今の状態についていくしなやかさでしか対応できないことの大事さを感じた。

他にも具体的にコンテナの規格を広げるときの大変さとか、荷降ろしの過去の常識とかいろいろな知識に触れられるとてもいい本だった。単なる箱だけどすごいんだね。